百日咳・パラ百日咳
百日咳とは
百日咳は、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)という細菌によって引き起こされる急性呼吸器感染症です。特に乳幼児にとっては重篤な合併症を起こす可能性があるため注意が必要です。症状は長期間続く咳発作が特徴で、発作性の激しい咳が数週間から数カ月持続することがあります。
パラ百日咳について
パラ百日咳は、ボルデテラ・パラパータシス(Bordetella parapertussis)による類似の呼吸器感染症です。症状は百日咳と似ていますが、通常は軽症で済むことが多く、ヒューという吸気音や嘔吐などの強い症状は少ないとされています。ただし、乳幼児や免疫力の低下した方では、百日咳と同様の重症化のリスクもあります。
百日咳と鑑別が難しいですが、PCR検査での鑑別診断することが可能です。当院では、パラ百日咳も含めた迅速多項目PCR検査にて診断が可能です。
百日咳とパラ百日咳の比較
項目 | 百日咳 | パラ百日咳 |
---|---|---|
原因菌 | B. pertussis(ボルデテラ・パータシス) | B. parapertussis(ボルデテラ・パラパータシス) |
主な症状 | 激しい咳、ヒュー音、嘔吐、無呼吸 | 咳は軽度~中等度、ヒュー音や嘔吐は少ない |
重症化リスク | 特に乳児では高い | 一般に軽症だが、乳児では注意 |
診断法 | PCR、培養、抗体検査、抗原検査 | PCR、培養 |
治療薬 | マクロライド系抗菌薬 | マクロライド系抗菌薬 |
ワクチン | あり(DPT-IPVなど) | なし(百日咳ワクチンに交差効果の可能性) |
当院での検査対応 | 迅速PCR(20分) | 迅速PCR(20分) |
主な症状
初期には風邪のような症状(くしゃみ、軽い咳、微熱)から始まり、徐々に次のような症状が現れます:
- 連続する激しい咳(発作性咳嗽)
- 咳の後にヒューッという吸気音(百日咳で多い)
- 嘔吐を伴う咳
- 特に乳児では無呼吸発作やけいれんを伴うことも
成人やワクチン接種者でも感染することがあり、軽症であっても他人にうつす可能性があります。
検査について
百日咳およびパラ百日咳の診断には、主に以下のような検査が用いられます:
- PCR検査:鼻咽頭ぬぐい液を用いて、百日咳菌・パラ百日咳菌の遺伝子を検出します。発症初期の確定診断にも有用です。
- 培養検査:感度は高くないものの、PCR検査が出来ない場合の標準的な検査法です。培養には数日かかるため、診断までに時間を要します。
- 血清抗体検査:発症から2~3週間以上経過している場合に有用です。
- 抗原検査:迅速抗原検査の感度は30~50%程度と低く、陰性の場合でも百日咳を否定できないこと多数です。特異度は高く、陽性判定の場合、百日咳の可能性は高く診断に役立てることができます。
当院では、迅速多項目PCR検査機を導入しており、百日咳およびパラ百日咳を含む複数の呼吸器感染症を同時に調べることができます。いずれも最短20分で結果が判明します。 早期診断をすることにより隔離の判断が可能なため、家庭内・学校内での感染拡大防止に役立ちます。
治療
百日咳の治療には、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンやアジスロマイシン)が処方される事が多くあります。パラ百日咳も基本的には同様の抗菌薬が用いられます。発作性咳嗽が始まってしまった場合には、抗菌薬の効果は限定的となるため、PCR検査等による早期診断と早期治療は有用です。
予防(ワクチン)
予防手段としてはワクチン接種が有効です。百日咳ワクチンは、現在は乳児期に4種(3種)混合ワクチン(DPT-IPV)として定期接種されています。パラ百日咳には特異的なワクチンはありませんが、百日咳ワクチンが一部交差予防効果を持つ可能性があります。
百日咳の予防には、DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)ワクチンや4種混合ワクチン(DPT-IPV:ポリオ含む)が使用されます。日本では、乳幼児期に定期接種として実施されていますが、その後の追加接種の体制は年齢層により異なります。
特に10代後半~成人では免疫が低下している場合もあり、咳が長引く感染源となるケースも見られています。
年齢層(生年月日目安) | 接種状況 | 備考 |
---|---|---|
0~1歳(2023年以降生まれ) | 定期接種(4種混合) 3回+追加1回 |
生後3か月から開始、計4回 |
5~7歳(2017~2019年生まれ) | 任意接種(追加推奨) | 5~7歳での追加接種が有効とされるが日本では定期化されていない |
11歳前後(2013~2015年生まれ) | 2種混合(DT:百日咳なし) | 百日咳成分は含まれないため、免疫維持に課題 |
20~40代(1985~2005年生まれ) | 接種歴不明または1回のみ | 免疫が低下しており、子どもへの感染源となり得る |
60歳以上(1965年以前生まれ) | ほとんど接種歴なし | 予防接種制度開始前に出生、感染時は重症化しやすい |
成人への百日咳ワクチン(Tdapなど)の導入が欧米で進められていますが、日本では定期接種にはなっていません。成人への追加接種を実施する場合は、一般的に3種混合ワクチンを保険外接種するも可能です。
迅速多項目PCR検査
検出内容:8種ウイルス・4種細菌※
検体:鼻咽頭ぬぐい液
時間:15~20分
※短時間で多項目を同時に検出できる
※同時に検出できるもの
【ウイルス(8種)】
・インフルエンザウイルス
・新型コロナウイルス
・季節性コロナウイルス
・パラインフルエンザウイルス
・ヒトメタニューモウイルス
・アデノウイルス
・RSウイルス
・ヒトライノウイルス/エンテロウイルス
【細菌(4種)】
・マイコプラズマ
・クラミジアニューモニエ
・百日咳菌
・パラ百日咳