非結核性抗酸菌症(NTM)
非結核性抗酸菌症(NTM症)について
非結核性抗酸菌症とは、結核菌やらい菌以外の抗酸菌によって引き起こされる慢性の感染症です。非結核性抗酸菌(NTM: Nontuberculous Mycobacteria)は、土壌や水中など自然界に広く存在し、健康な人にも感染することがありますが、特に高齢者、慢性肺疾患を持つ方、免疫力が低下している方で発症リスクが高まります。
代表的な原因菌
- Mycobacterium avium(アビウム菌)
- Mycobacterium intracellulare(イントラセルラレ菌)
- Mycobacterium kansasii(カンサシ菌)
- Mycobacterium abscessus(アブセスス菌)
特にアビウム・イントラセルラレ複合体(MAC菌)が、肺の非結核性抗酸菌症の原因として最も多くみられます。
主な症状
症状は徐々に進行し、次第に日常生活に支障をきたすようになります。
- 長引く咳
- 痰(とくに白っぽい、泡立つ痰)
- 血痰
- 体重減少
- 発熱や倦怠感
診断の流れ
非結核性抗酸菌症の診断には、画像検査、喀痰検査、血液検査などを組み合わせて行います。
1. 胸部レントゲン・CT検査
CT画像では、肺の「空洞」や「粒状影」「気管支拡張」などの特徴的な所見が見られることがあります。MAC菌によるものは、右中葉や左舌区に好発する傾向があります。
2. 喀痰検査
痰を複数回提出し、抗酸菌の塗抹検査・培養検査・遺伝子検査(PCR)を行います。3回以上の痰検体からNTMが検出され、かつ臨床症状と画像所見が一致する場合に診断が確定されます。
3. 血液検査
CRPなどの炎症反応や、栄養状態の指標を確認します。重症例では免疫機能の評価も必要です。
治療について
非結核性抗酸菌症の治療は、長期間(1〜2年以上)にわたる多剤併用療法が基本です。治療開始の判断は、症状・画像・菌の種類・全身状態などを総合的に判断して行われます。
主な治療薬の例(MAC菌の場合)
- クラリスロマイシン(クラリス®)またはアジスロマイシン(ジスロマック®)
- リファンピシン(リファジン®)
- エタンブトール(エブトール®)
治療開始から12ヶ月以上「痰から菌が検出されない状態」が続くことを目指します。副作用(肝障害、視神経炎など)にも注意が必要です。
非結核性抗酸菌症は、慢性的に進行する肺疾患であり、正確な診断と長期的な治療が必要です。症状が続いている方、咳が長引く方は早めの呼吸器専門医の受診をおすすめします。
経過観察と生活上の注意
- 定期的な血液・痰・CT検査が重要
- 治療を中断すると再発リスクが高いため、自己判断で中断しない
- 栄養バランス、口腔衛生、肺リハビリテーションなども重要
- 菌の排出がある場合、家庭内感染は少ないとされていますが、手洗いや咳エチケットを意識しましょう